図1 ICP/MS装置 Agilent7900
日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)において新医薬品に対する元素不純物ガイドライン(Q3D)が厚生労働省より発表され、2017年4月以降に承認申請される新医薬品(新製剤)が適応対象となりました。ICH Q3Dでは表1の元素が評価対象となり、元素毎にPDE値※1が設定されています。分析においては管理閾値(PDE値の30%)を精度良く分析する事が求められており、確かな前処理技術と、ICP/MSによる精度の高い微量金属分析技術が要求されます。
※1)PDE値(μg/day);1日に許容される摂取限度値
表1. ICH Q3D評価対象元素
クラス | 元素 | リスクアセスメントの有無 |
---|---|---|
1 | As、Cd、Hg、Pb | 必要 |
2A | Co、Ni、V | 必要 |
2B | Ag、Au、Tl、Pd、Pt、Ir、Os、Rh、Ru、Se | 意図的に添加した場合に評価要 |
3 | Sb、Ba、Li、Cr、Cu、Sn、Mo | 注射剤、吸入剤で評価要 |
濃度限度値の1/10を目標定量下限として、9項目のバリデーションを実施しました。バリデーション計画を表3に示します。
図2 マイクロウェーブ分解装置
Discover SP-D80
ICH Q3Dで評価が必須であるクラス1、クラス2AのAs、Cd、Hg、Pb、Co、V、Niの7元素について、市販の経口製剤を用い、マイクロウェーブ分解-ICP/MS法(装置写真図1、2)により、USP<233>に準拠したバリデーションを実施しました。PDE値より、製剤の1日最大摂取量を10gとして換算し、評価対象元素の濃度限度値Jを算出しました。各元素のJの値を表2に示します。
J (μg/g)= PDE(μg/day)/1日の最大摂取量(g/day)
表2. クラス1・2A濃度限度値J(μg/g)
元素 | As | Cd | Hg | Pb | Co | V | Ni |
---|---|---|---|---|---|---|---|
J | 1.5 | 0.5 | 3 | 0.5 | 5 | 10 | 20 |
濃度限度値の1/10を目標定量下限として、9項目のバリデーションを実施しました。バリデーション計画を表3に示します。
表3-1. バリデーション計画
項目 | 評価方法 |
---|---|
真度 | 0.1J~1.5Jの範囲で添加試料(n=3)を調製し、添加回収率を求める。 判定基準:添加回収率が70〜120% |
併行精度 | 1Jの添加試料(n=6)を調製し、相対標準偏差を求める。 判定基準:相対標準偏差が20%以下 |
室内再現精度 | 試験日時を変更し、1Jの添加試料(2日間 n=12)を調製し、相対標準偏差を求める。 判定基準:相対標準偏差が20%以下 |
特異性 | 1Jの添加試料(n=3)にナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムを100ppm加えた時の回収率を求める。 判定基準:添加回収率が70-120% |
直線性 | 6水準以上の標準液での回帰直線の相関係数を求める。 判定基準:相関係数が0.999以上 |
定量下限 | 操作ブランク10回繰返して測定し、標準偏差(σ)より定量下限値を求める。定量下限=10σ/検量線の傾き 判定基準:0.1J以下 |
範囲 | 直線性、真度、精度及び定量下限が保証された範囲内であること。 判定基準:0.1J~1.5Jの範囲 |
システム適合性 | 0.1Jの標準溶液を6回繰返して測定し、相対標準偏差を求める。 判定基準:相対標準偏差が3%以下 |
溶液の安定性 | 1Jの添加試料調製 48時間後と1Jの標準溶液との残存率を求める。 判定基準:残存率が80〜120% |
バリデーション9項目の結果を表4および表5に示します。全ての項目において良好な結果が得られました。
表4. 真度・併行精度・室内再現精度・特異性
元素 | 真度 | 併行精度 | 室内再現精度 | 特異性 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
添加回収率(%) | RSD(%) | RSD(%) | 回収率(%) | ||||
0.1J添加 | 0.5J添加 | 1J添加 | 1.5J添加 | 1J添加 | 1J添加 | 1J添加 | |
Cd | 110 | 102 | 103 | 103 | 0.4 | 1.4 | 103 |
Pb | 108 | 100 | 101 | 103 | 0.6 | 1.1 | 103 |
As | 108 | 100 | 98 | 97 | 2.1 | 3.6 | 94 |
Hg | 112 | 107 | 107 | 107 | 0.3 | 2.6 | 106 |
Co | 95 | 89 | 90 | 91 | 0.6 | 1.3 | 91 |
V | 104 | 97 | 97 | 97 | 0.7 | 0.6 | 96 |
Ni | 92 | 88 | 89 | 91 | 0.5 | 1.1 | 91 |
判定基準 | 70〜120 | ≦20 | ≦20 | 70〜120 |
表5. 直線性・定量下限・範囲・システム適合性・溶液の安定性
元素 | 直線性 | 定量下限 | 範囲 | システム適合性 | 溶液の安定性 |
---|---|---|---|---|---|
相関係数 | (μg/g) | (%) | RSD(%) | 残存率(%) | |
Cd | 0.9999 | 0.01J以下 | 0.1J〜1.5J | 0.7 | 108 |
Pb | 0.9999 | 0.01J以下 | 0.1J〜1.5J | 0.4 | 109 |
As | 0.9999 | 0.01J以下 | 0.1J〜1.5J | 0.6 | 104 |
Hg | 1.0000 | 0.01J以下 | 0.1J〜1.5J | 0.3 | 103 |
Co | 0.9999 | 0.02J | 0.1J〜1.5J | 0.4 | 91 |
V | 0.9999 | 0.02J | 0.1J〜1.5J | 0.4 | 102 |
Ni | 0.9999 | 0.01J | 0.1J〜1.5J | 0.4 | 92 |
判定基準 | 0.999以上 | 0.1J以下 | 0.1J〜1.5J | ≦3 | 80〜120 |
GMP※2に要求される品質管理体制の元、ICP/MSによる医薬品(原薬、中間体、製剤)の元素不純物分析を実施します。本分析においては、医薬品毎に成分が異なるため、適切な前処理方法の選定と、内部標準の選択等によるICP/MSの最適条件化が鍵となります。確かな分析技術で最適分析条件を見つけ分析を実施します。
各医薬品のバリデーション試験や、一斉スクリーニング分析(Li~U 70元素)、ICP/AES法による分析も実施しますので、御相談ください。
※2)GMP(Good Manufacturing Practice): 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準